ネタバレ有り⚠『国宝』——血筋という宿命について
今年話題になった映画『国宝』。
監督は在日韓国人でありながら、日本の伝統文化を題材として描くという点で、そこにどんな思いを込めたのか——観る前から興味を惹かれた人も多いのではないでしょうか。

「伝統」という日本の根幹に触れるテーマに、外からの視点を持つ監督がどう挑んだのか。その意図を感じながら作品を観ると、より深く響くものがあります。
鑑賞直後にネタバレ無しのBlogを書きましたので、本編の需要な内容に触れて欲しくない方はコチラ🔗をご覧いただき、今回の記事はスルーして下さいね。
喜久雄の「才能」と俊介の「血筋」
物語の中心にいるのは、芸の才能に恵まれた喜久雄と、名門の血を引く俊介。
戦友であり、ライバルであり、そして何よりもお互いを理解し合う親友でもある二人。
彼らは互いに、自分に欠けたものを相手の中に見出していました。
喜久雄が求めたのは「血筋」という確固たる継承。
俊介が憧れたのは、血に頼らず己の力で極みに到達していく喜久雄の「才能」。
どちらが芸の道を極める上で重要なのか——それはこの映画全体を貫く問いでもあります。

花江の選択と、その裏にある想い
喜久雄のプロポーズを断り、俊介を選んだ花江(高畑充希)。
その選択にもまた、「血筋」というテーマが色濃く滲んでいます。
彼女は、芸に憑かれたように突き進む喜久雄の邪魔をしたくなかったのかもしれない。
あるいは、自分に目を向けてくれない喜久雄に寂しさを感じ、心の傷を抱えた俊介を支えたいという母性が働いたのか。
もしかすると、不遇な環境に生まれた自分を「表の世界」に連れ出してくれる可能性を、俊介の血筋の中に見たのかもしれません。
花江の選択は単なる恋愛ではなく、社会的階層や伝統芸能の閉鎖的な構造の中で、「女性が未来を選ぶ」ことの難しさを象徴しているように思えます。

「血筋」という呪い
先代の花井半二郎を死に追いやったのは糖尿病。

そして後に、俊介も同じ病に苦しみます。

それが生活習慣によるものなのか、遺伝性のものなのかは明確には語られません。
しかしもしそれが「遺伝による2型糖尿病」であるとするならば、それこそが喜久雄が羨んだ「血筋」の裏側に潜む呪いのようなもの。
芸の継承を支える血は、同時に肉体を蝕む病をも継いでいく。
血が持つ力は、祝福であり、呪いでもある。
俊介がその苦しみを超えようと舞台に立ち続ける姿は、血に抗う意志そのものであり、そこにこそ彼の芸が宿っていました。
芸のために切り捨てるもの
喜久雄は俊介と決別した後も、ただひたすらに芸の道を突き進みます。
彼の人生は、芸のために何かを捨てていく行為の連続でした。
映画『インターステラー』の中で、宇宙船が加速するために一部を切り離すシーンがあります。


「何かを捨てることでしか、前に進めない」——その物理法則は、芸の世界にも通じているように感じます。
喜久雄はまさに、悪魔と契約した芸の求道者。
人としての幸福や愛情を切り捨てながらも、芸の極みに辿り着くことでしか生きられなかった。
それは血筋を持たない天才ゆえの、孤独で美しい生き方でした。

芸の美しさは、私たちの中に刻まれている
『国宝』を観て感じる熱や感動は、きっと日本人の中に受け継がれている美意識のDNAが反応しているからだと思います。
誰もが本能的に知っている「極めることの尊さ」「犠牲の上に成り立つ美」。
喜久雄の生き方は、その根源に触れるものだったのかもしれません。

私はこの映画を観てからもう4ヶ月以上が経ちますが、今でもお客様と感想を語り合う時間が尽きません。
それほどまでに『国宝』は、観た人それぞれの「血」と「人生」に問いを投げかける、深い作品でした。
『国宝』は、血筋と才能の二つの力が交錯する中で、
「芸とは何か」「継ぐとは何か」という根源的なテーマがストーリーに詰め込まれた映画です。
沢山の要素と見所が詰まった175分間🎥
人それぞれの感じ方があると思います。
皆さんの感想も是非お聞かせください。
おまけ
秋の夜長にオススメ作品🎬を一部紹介します(-ω-)/
- ロストボディ(スペインのサスペンス映画)
- インビジブルゲスト(ロストボディと同じ監督のサスペンス)
- 9人の翻訳家 囚われたベストセラー(スペインとベルギーのサスペンス映画)
- メッセージ(アメリカの超本格的SF小説『ARRIVAL』の映画化作品・難易度高め)
- アバウトタイム~愛おしい時間について~(イギリス SF恋愛&ヒューマン映画)
- ポーカーフェース(アメリカのドラマ シーズン2まで・1話完結型)
- グリーンブック(アメリカの伝記ヒューマン映画 実話 アカデミー作品賞)
- ある男(第46回日本アカデミー最優秀作品賞・他5部門の総なめヒューマンミステリー)


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